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Developers Summit 2024 Summer レポート

開発会社では味わえない「事業への貢献」──スターバックス&星野リゾートのITリーダーが語る、事業会社のエンジニアリング

【24-C-9】スターバックスコーヒージャパンと星野リゾートのテクノロジー組織が描く、事業貢献の未来とは

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 小売業やサービス業など、IT以外の事業を主力とする企業の中に入って事業を支えるエンジニア。開発会社と異なり、「縁の下の力持ち」として見えないところで力を発揮することが多いが、事業会社でしか見えない景色がある。事業会社におけるエンジニアの在り方や活躍について、グロース・アーキテクチャ&チームス 代表取締役の鈴木雄介氏をモデレーターに迎え、スターバックスコーヒージャパンでスターバックステクノロジー本部長を務める荒木理江氏、星野リゾート 情報システムグループの藤井崇介氏によるパネルディスカッションが行われた。

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 本記事の情報は、セッション実施の2024年7月24日時点のものとなります。

事業×ITで創出する「顧客に選ばれる理由」

 セッションは荒木氏・藤井氏の属する組織の概要説明から始まった。荒木氏のスターバックステクノロジー本部では、1,917店舗・全60,000人の従業員や店舗関係者を支えるシステムの構築・運用を行なっている。カスタマーやリテールに接するチーム、サプライチェーンから従業員の勤怠・冷蔵庫の温度管理までサポートするバックヤード専任のチーム、インフラやネットワークを整備するチームの3グループに分かれているという。

 テクノロジー本部で運用を行うスターバックス公式アプリの会員数は1,300万人を超えており、「いかにロイヤリティの高い顧客を獲得できるかで利益は大きく変わる」と語る荒木氏。IT技術は同社の事業に大きな影響を与えており、「企業がやりたいことを、いかにテクノロジーを効果的に活用して実現するか、その落とし込みをするのが我々の組織。Techチームが自信をもってビジネスを後押しできなければ、ビジネスも先に行かない」と、テクノロジー本部の重要性を強調した。

スターバックス コーヒー ジャパン株式会社 スターバックステクノロジー本部 本部長 荒木 理江氏
スターバックス コーヒー ジャパン株式会社 スターバックステクノロジー本部 本部長 荒木 理江氏

 一方で、もともとはSIerとして開発を行っていた星野リゾートの藤井氏は、開発からインフラまでのリスク管理や導入支援・環境構築などを行なっている。50人ほどのエンジニアからなる情報システムグループではWebサイトや予約システムの運用管理も行っており、パッケージ製品の繋ぎ込みなど細かい業務も職掌としている。

 藤井氏は、非IT事業者における情報技術を「世の中へのキャッチアップ」「自社オリジナルのIT化」の2面から語る。前者は、その顧客が前回来訪したときにどのような対応をしたか・何を食べたかといった顧客情報の電子化や、予約まわりの問い合わせのチャットボット化などであり、IT化としては一般性の高いタスクだ。

 後者は、施設ごとに別れていた予約ページを一本化して顧客の利便性を高めたり、予約に使えるギフト券の販売ページやふるさと納税のページを予約サイトにリンクさせるといった、「既存の汎用システムでは実現できない、売り上げに直結する部分のIT化」だ。星野リゾートのIT領域においては、この2つの面からロイヤルカスタマーの獲得を行っているという。

株式会社星野リゾート 情報システムグループ シニア・アーキテクト 藤井 崇介氏
株式会社星野リゾート 情報システムグループ シニア・アーキテクト 藤井 崇介氏

 両社とも「IT化を通じて事業に付加価値をつける」という観点は共通しているが、ITを主力事業とする会社とは異なり、「CV(顧客価値)やCS(顧客満足度)の向上、売上への貢献、業務効率化という3軸のバランスを取らなければならないのが悩ましいところだ」と鈴木氏は総括する。

売上と現場社員の運用、どのようにバランスを取るか?

 「IT企業では、顧客価値を高めれば売上が伸び、業務の効率化が進むというストーリーが明確だ。他方、非IT企業では、売上だけにコミットすると、オペレーションを担う社員にしわ寄せが行くだけでなく、顧客価値が毀損される恐れもある」。鈴木氏はそう述べ、このバランスをどう取っているかという問いを投げかけた。

Graat 代表取締役社長 鈴木 雄介氏
Graat 代表取締役社長 鈴木 雄介氏

 先に答えたのは藤井氏だ。鈴木氏の問いは「永遠のテーマであり、答えはない」としつつ、現在は業務改善と新規事業の2つに「リソースをざっくり割る」ことで、バランスを図っていると示した。非IT企業では、意識はどうしても売上のほうに向き、「数字を上げることが正義」という近視眼的な見方に陥りがちだ。しかし、業務負荷を下げないことには新たな発想も生まれ得ない。そこで、「実態に合わせて、両者のバランス配分を例年変えている」というわけだ。

 加えて、こうした取り組みができるのは、「新たな施設のオープンや、新規事業に伴うチャレンジが絶え間なく湧いてくるためだ」という背景にも触れつつ、新規事業と業務改善で関わりあう人が違うため、より一体的に企業全体を把握できるというメリットも示した。

 これに対し、「バランスは取る。以上!」と力強く語ったのが荒木氏だ。営業や店舗で働く従業員をオフェンス、サプライチェーンやバックオフィス側をディフェンスに喩えたうえで、各部門が売り上げ(オフェンス)/業務改善(ディフェンス)という分担だけを追っていては、「全体のバランスが歪んでしまう」と警鐘を鳴らす。

 そこで荒木氏のテクノロジー本部では、オフェンスチームがやりたいことを実現するために、ディフェンスチームを含めて全体の業務設計を見直す、双方とことん話し合う体制を整えている。「相手の領域に突っ込んでいける体制でなければ、真の意味でいいチームにはなれない。5年後の未来からバックキャストし、今あるべきバランスを常に考えている」というのだ。

 そうは言っても、クロスファンクションな動きはなかなか難しい。ときには、オフェンス側からの要望とディフェンス的な業務改善のどちらを優先すべきかという決断を迫られることがある。そんなときにテクノロジー本部が考えるのは、「スターバックスというブランドに関わる全てのステークホルダーに対して、どんな体験を提供するのか」という”スターバックス体験”だという。関わる全員が納得できる落としどころを探るわけだ。

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「新しい常識」を生み出せるのが事業会社でのエンジニアリング

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この記事の著者

川又 眞(カワマタ シン)

インタビュー、ポートレート、商品撮影写真をWeb雑誌中心に活動。

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CodeZine編集部(コードジンヘンシュウブ)

CodeZineは、株式会社翔泳社が運営するソフトウェア開発者向けのWebメディアです。「デベロッパーの成長と課題解決に貢献するメディア」をコンセプトに、現場で役立つ最新情報を日々お届けします。

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中島 佑馬(ナカシマ ユウマ)

 立命館大学卒業後、日刊工業新聞社にて経済記者として勤務。その後テクニカルライターを経て、2021年にフリーランスライターとして独立。Webメディアを中心に活動しており、広くビジネス領域での取材記事やニュース記事、SEO記事の作成などを行う。

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